前回の記事では、私たちが抱える誰にも言えない悩みについてお話ししました。 今回は、その悩みを解決しようと一歩踏み出した時に直面する、さらに厄介な壁について深掘りします。
それは、親とコミュニケーションを取れば取るほど疲弊してしまう、魔の伝言ゲーム現象です。
あなたは親の病院への付き添いや、実家の片付けの話をした後に、どっと疲れを感じたことはありませんか? それは単なる体力の消耗ではなく、情報の霧の中を手探りで進むような、脳のエネルギー浪費が原因かもしれません。
人間であるがゆえに発生する見えないバグ、記憶のフィルターの正体を解き明かしていきましょう。
人間は無意識に自分をよく見せようとする

私たちは誰しも、自分にとって都合の悪いことや、恥ずかしいと感じることを無意識に隠そうとする心理を持っています。これを心理学的な見地から見ると、自己防衛本能や自尊心の維持といった言葉で説明できますが、家族間においては情報のフィルタリングという深刻な障害となります。
例えば、高齢の親に最近、体調はどう?と電話で聞いたとします。 親は、本当は膝が痛くて歩くのが辛かったとしても、子供に心配をかけたくない、あるいは老いた自分を認めたくないという心理から、大丈夫、元気よと答えてしまうことがあります。
また、お金の相談などではその傾向がさらに強まります。実は生活費が苦しい、よく分からない高額な商品を買ってしまったといった事実は、親としてのプライドが邪魔をして、子供には最も話しにくい内容です。
その結果、親から発信される情報は、オブラートに何重にも包まれ、事実が80%程度に薄められた、あるいは歪められた状態になります。私たちは、この加工された情報を元に判断せざるを得ないのです。
入力が不正確なら、解決策も不正確になる

システム開発の世界には、Garbage In, Garbage Out(ゴミが入れば、ゴミが出てくる)という言葉があります。 これは、間違ったデータを入力すれば、どんなに優秀なコンピュータでも間違った答えしか出せないという意味です。
これは家族の問題解決でも全く同じことが言えます。
もし親が体の不調を隠して大丈夫と言えば、あなたは病院に連れて行くという選択肢を捨ててしまいます。その結果、発見が遅れ、後になってから重篤な状態で発覚するという最悪のシナリオを招くことになります。
また、親が寂しさを紛らわせるために話を盛って伝えてくることもあります。事実とは異なる近所トラブルの話を真に受けて、あなたが過剰に反応してしまえば、新たな火種を生むことさえあります。
情報の入り口が不正確であれば、あなたがどんなに親身になって考え、アドバイス(出力)をしたとしても、それは的外れなものになり、問題は解決するどころか長期化していくのです。
高齢者の記憶と崩壊する伝言ゲーム

さらに問題を複雑にするのが、加齢による記憶力の低下です。
典型的なのが、親が一人で病院に行った後の報告です。 医師から重要な服薬指導や生活上の注意を受けても、親はその全てを正確に記憶し、理解できているとは限りません。
先生なんて言ってた?と聞いても、特に何もないよ、歳のせいだってと言われるだけ。 しかし後日、薬の飲み合わせが悪くて体調を崩したり、再検査の予約をすっぽかしていたことが発覚したりします。
医師という情報の出し手から、親という中継地点を経由して、あなたという受け手に届くまでの間に、情報は抜け落ち、変形してしまいます。 これが、家族を混乱させる伝言ゲームの実態です。
あなたは、親の言ったことが本当なのか?と疑心暗鬼になり、わざわざ病院に電話して確認したり、書類を探しに実家に帰ったりと、情報の裏取りをする探偵のような作業を強いられます。これこそが、見えない介護負担の正体であり、あなたを精神的に追い詰める要因なのです。
感情と記憶に左右されない「第3の存在」

ここまで見てきたように、人間同士、特に配慮やプライドが交錯する親子間での情報伝達は、構造的に不正確にならざるを得ません。 親が悪いわけでも、あなたの聞き方が悪いわけでもありません。人間の脳の仕組み上、仕方のないことなのです。
では、もしここに、感情やプライドに左右されず、聞いたことを100%正確に記憶し、必要な時に必要な情報だけを取り出してくれる第3の存在がいたらどうでしょうか?
親のプライドを傷つけず、かつ、あなたに正確な事実を伝えてくれる。 そんな都合の良いクッション役がいれば、この疲れる伝言ゲームを終わらせることができるかもしれません。
次回の記事では、そんな夢物語を現実にする、AIを活用した新しい家族のコミュニケーションの形についてお話しします。 それは決して冷たい機械的な管理ではなく、人間が人間らしくあるための、温かい技術の活用法です。
